179 175 Confirmation and rediscovery may change the way we do things. (1/2)

教官たちとの飲み会で何かを掴みかけてから、早いもので、もう一週間.

月は十二月に入り、世間はクリスマスや年越しといったイベントムードで盛り上がっている.

そんな最中で、俺はといえば、訓練、訓練、訓練と暇があれば体を鍛え続けていた.

なにせ、そんなイベントにうつつを抜かせるようなスケジュールではないからだ.

「フゥ、結構体にくるな」

クリスマスの鐘が聞こえない、クリスマスソングとは無縁の、大自然の真っ只中で俺は荒くなった呼吸を落ち着ける.

断崖絶壁の岩山を駆け上がり、もろい足場をうまく体重を分散させることで踏み砕くことなく立つことのできる空間に着陸した.

競技大会まで、後一週間.

攻撃力という面では十分とは言わずとも及第点を与えられたと思う俺であったが、その反面身体能力、特筆して足の速さといった体の移動速度のフィジカル方面での不安を抱え込んでいた.

最近のダンジョン攻略でもそれが顕著に出始め、良い機会だと思いこうやって、自主トレに励んでいた.

攻撃する直前の踏み込み、そこに持ち込むまでの過程をいかに速く、短縮できるかが俺の課題となった.

だが、闇雲に前に突き進むだけの速さを鍛えていては意味はない.

「……ふぅ」

なので、敵の構成は自然と尖った編成になる.

こんな断崖絶壁に生息するような飛行系、鳥や飛龍、或いは虫といった機動力の高いモンスターを中心に設定した.

おかげで、逃げ切るという行為は格段に難しくなり、自然と殲滅する方向に俺の選択肢は傾く.

なのでついさっきまで動き回り、普段よりも体力を消耗しようやく一息つけたといったところだ.

「とりあえず一段落か」

戦闘が落ち着けば、小休止の間に先ほどの戦闘の反省をする.

不安定な足場、不十分な姿勢、高速で移動する相手、機動戦での障害.

さらに体力の消費を抑えるには、受けるだけではなく相手の攻撃を最小限に回避する必要もある.

そして回避から最短距離を進み攻撃に繋げる、そんな動作を磨かなければならないのだ.

課題も多く、それらをすべてこなす術は一朝一夕では身につくものではない.

流れる汗を拭いながら、そんな時間の足りなさを解消してくれる空間があることに感謝する.

時空次元特殊訓練室、それは室内時間を外の空間より早くすることで通常よりも多い時間を過ごすことができる空間だ.

さらに魔力体で過ごせば、老化する心配もない優れもの.

だが、今の俺にはあまり関係ない.

「本当に無理するわね」

「ヴァルスさんか」

「あら、あなたの奥さんたちの代わりに見守っててあげてるんだから、そんなそっけない態度を取らないの. ほら、可愛い堕天使ちゃんが用意してくれた飲み物を飲みなさいな」

時空の精霊、ヴァルス.

俺の呼び方はヴァルスさんだが、彼女の存在のおかげで俺の今の肉体は不老となっている.

なので魔力体にならずして生身を鍛え上げることができている.

「ああ、助かる」

まぁ、不老になったからといって寿命に制限がなくなったというだけで、腹が減りもすれば喉も乾く.

体を動かした分だけエネルギーは消費されるわけで、補給する必要がある.

ヒミクが用意してくれた水筒を異空間から取り出したヴァルスさんから受け取りそれを呷る.

「ふぅ、武器を振るうのとだいぶ感覚が違うのはわかっていたが、ここまで不十分だったとはな. 視界を広げるのも思ったよりも難しい」

この空間に入って、空間内時間で二日、現実では二時間ほどが経過している.

その間ずっと戦い続け、実戦で体を鍛え続けていた.

今回の目的は基本的に足腰を重点的に、それに次いで目を鍛えたかった.

そして実際にやってみた際に感じたことを口にすれば.

「当たり前よね、今のあなたが求めているのは体を素早く動かす方法、剣を振るうとじゃ、感覚がだいぶ違うし、人間慣れている感覚を変えようとするのは難しいものなの」

「おっしゃる通りだな、まったく我ながら甘く見てた」

傍にいたヴァルスさんに指摘され、まったくその通りだと思う.

こんな訓練は本来であれば長期的に見てやる訓練だ.

何度も反復し、体に馴染ませるべき工程だろう.

教官たちという壁を前にして、入社したての頃に攻撃力がなければ意味がないと思い、訓練比重が攻撃の術に傾いていたツケを今感じている.

鍛えれば鍛えるほど自身に足りていないものが見えてきて、いくらこの空間を使っても時間が足りない.

ヴァルスさんが試練の時に使った空間も彼女の魔力の関係上でしばらくは使えない.

加えて言うなら、競技大会の何日か前には疲れを残さないように調整しないといけないから、実質使える日はもっと少なくなるだろう.

おそらくこの訓練の成果は付け焼刃以上には身につくだろうが、完全にモノにするのは難しいと言わざるを得ない.

しかし焼け石に水だとは理解していても、やらないよりはマシだと思って始めた訓練は意外と成果は出ている.

まず、下半身を強化したことで攻撃の安定性が増した.

おかげで、鉱樹を振るうまでの動作にいくつもの選択肢を用意する余裕が生まれたのだ.

相手に接敵するためにはどうすればいいか.

などを考えながら訓練してきたおかげか、足腰の使い方がだいぶ変わった.

ただ走るのではなく、次の動作につなげるにはどういった体重配分で動けばいいか、低い姿勢と高い姿勢の使い分け.

意識していたつもりであったが、それでも見落としている部分はやはりあった.

今回は、それを見直すいい機会になったと思う.

その機会を少しでも無駄にしないためにそっと空を見上げ、手頃な敵が飛んでいるのを見つけ、垂れてくる汗を拭い、呼吸も整った頃を見計らい訓練を再開する.

「さて、もう少し行くか」

「程ほどにしなさいね」

「おう」

できることをすべく俺は再び駆け出し、鉱樹の柄を握り岩山を駆け巡る.

Another side

「さて、エヴィア、準備の方はどうだい?」

「はい、各参加者は順次集まりつつあります. このままいけば予定通り行なえるかと」

次郎が訓練に励んでいるあいだにも、競技大会の準備は着々と進んでいる.

舞台である場所は、この社内にある.