55-55 Gray Ghost (2/2)
オーケン先生が見せてくれた前人未到の最高奥義.
でも同時に、それだけではないことにも気が付いた.
先生の指先に灯された【プチファイア】.
その全てが、以前先生が私に見せてくれたような強度で【過剰詠唱(オーバーキャスト)】されているのだ.
いったい、どうやったら、そんなことが……?
もはや、想像を超えているという次元ではない.
あれは、もう、なんと言えばいいのか.
……言葉にすら、ならない.
私がそんな愕然とした想いで先生の姿を追っていると、更に途方に暮れる光景を目にすることになった.
「────────嘘、ですよね……?」
先生は手にした『黒い剣』で白い触手を弾きながら、もう片方の手で【過剰詠唱(オーバーキャスト)】された【五重詠唱《クィントゥプルキャスト》】の【プチファイア】を手の中に集約し、瞬く間に一つに束ねていく.
すると手の中に灯った小さな火が一層眩しく輝き出した.
────あれは. まさか.
「…………【魔法融合(フュージョンマジック)】…………!」
それもオーケン先生が百年を超える長い研鑽の果てに辿り着いた至高の技術.
二つの魔法の発動を寸分の違いなく重ね合わせると、飛躍的に互いの威力が増す──その理論は昔からあったが、実現には恐ろしいほどの魔力制御の精度を要求され、体現できた者はオーケン先生しかいないとされる.
しかも、それはあくまで一つの魔法と一つの魔法を重ね合わせるという技術だったはずだ.
……なのにノール先生は今、一度に五つ(・・)を『融合』させているのだ.
それを体現するのに、どれ程の研鑽を必要とするのか、私では想像もつかない.
途方もないことが今、目前で繰り広げられている.
私が軽い眩暈を憶えているうちに、先生は手のひらを敵に向けた.
「【プチファイア】」
瞬間、轟音を伴う閃光と共に【灰色の亡霊(ファントムグレイ)】の身体が爆散した.
──そう、あれは【プチファイア】だ.
元は指先に火を灯すだけの、最下級の魔法スキル.
それが信じられないほどの威力に高められている.
あっという間に再生する【灰色の亡霊(ファントムグレイ)】を前にして、先生は落ち着いて『黒い剣』を投げつけ、行動の自由を奪い、一瞬で間合いを詰めた.
その両手にはそれぞれ、【五重詠唱《クィントゥプルキャスト》】された【プチファイア】.
先生はそれを当然のように手の中に集約し、それを重ね合わせ──再び【灰色の亡霊(ファントムグレイ)】に放った.
────闇を振り払う灼熱の閃光と、地を揺らす轟音.
巨大な空洞を覆うほどだった巨体と背後の祭壇が一瞬にして蒸発し、周囲の壁や床も大きく抉られた.
それは想像すら及ばないほどの高みだった.
私の【多重詠唱(マルチキャスト)】の限界が、両手合わせてやっと『六』.
賢者と讃えられ【九魔】の異名を持つオーケン先生でさえ『九』.
それを先生は同時に『十』の魔法を詠唱し、しかも、全てを【過剰詠唱(オーバーキャスト)】すると同時に、全てを一点に『融合』させ、一斉に放ったのだ.
────恐ろしいほどの研鑽.
────それに見合う、途轍もない威力.
もしこれで、倒せない相手がいるとしたら、もうどんな手段でも対抗はできないだろう.
私など、いつになったらその水準(レベル)に至れるのか想像もつかない.
オーケン先生ですら、あの領域の魔法を行使するのは至難の業だろう.
それはそれ程に凄まじいものだった.
あれほどの一撃を受ければ如何に伝説上の怪物でもひとたまりもない──絶対に倒せている筈.
そんな風に思わずにはいられない一撃だった.
むしろ、そうであって欲しいと願っていた.
あれでどうにか出来なければ私はもう、どうしていいかわからなかったから.
────なのに.
それなのに.
《────────おおおおおおおおおオオおおおおおおおオオおおおおオオおおおおおおおおオオおおおおおおおおおおおおオオおおおおおおおオオおおおおオオおおおおオオおおおおオオおおおおおおおおおおおおおオおおおおおオオおおおおおおおオオおおおおオオおおおおオおおおおおおおオオおおおおオオおおおおおおおおおおオオおおおおおおおオオおおおおオオおおおおオオおオオおおお────》
再び、暗闇の中にあの恐ろしい声が響いた.
先生のあれだけ強烈な魔法攻撃を受けながら、【灰色の亡霊(ファントムグレイ)】は殆ど時間をおかずに復活した.
It was all intact.
──── despair.
That's the word that popped into my head when I saw that creepy white thing that had grown a size or two.
It's much bigger than before.
It's clearly getting stronger.
I can't even damage it.
How am I supposed to defeat something like that?
Again, my body stiffens in fear.
But the teacher looks on and keeps a cool face.
I guess it didn't work.
On the contrary, he looks somewhat relieved and satisfied, as if he has done everything.
I wonder how you can be so complacent. But it's not as if he's given up.
──── Yes.
The person standing right beside me right now is none other than Dr. ...... Noor.
I'm sure he has some kind of special trick up his sleeve that I haven't thought of yet.
So I looked into his face with anticipation, and he smiled quietly.
The gentle smile eased my tension and I smiled back.
Then he said to me, relieved.
”Now, I'll leave you to it, Leanne.
............ What?